Returnal(リターナル)ストーリー シシュポスの巨塔考察

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オデ、イエティ。今日は『Returnal』のストーリーの最終考察をするよ!

ネタバレ注意!

Returnalに関してはこれまで二つの記事を上げてきたんですが納得できていないところもあるので掘り下げてみようと思います。どっちかと言うとアトロポスの謎よりセレーネの家族関係について補足するような内容になると思います。あとはこれまでの記事であまり触れていないシシュポスの巨塔についても書きます。

なおこの記事で語ることは基本的には過去に書いた二記事の内容をベースにしています。よくわかんねえ! と思ったら各記事を参照するか、もしくは変なおばさんのポエム集をストーリーと称して自信満々で売ってる公式に対して怒ってください。わかんないことは大体公式が悪い。このゲームについて真面目に考察しているユーザーはオデを含めてみんなえらいです。ようやっとる。褒めてあげてください。さて、それでは始めます。

ソニー・インタラクティブエンタテインメント
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目次

時系列

母テイアと父(本名不明)の間にセレーネが生まれる。

テイアは非常に優秀な宇宙飛行士候補であり生まれたセレーネにも英才教育を施すが、セレーネの宇宙への興味は薄かった。テイアはセレーネを期待外れと感じるようになる。そのうちにテイアが第二子を懐妊。男の子で「ヘリオス」と名付けることに決める。

ある日、テイアが運転していた車がセレーネを乗せている時に事故が起こった。車は湖に落下し、テイアはセレーネを救おうと試みたばかりに大怪我を負ってしまう。セレーネはテイアに助けられて奇跡的に無事だった。

セレーネを救おうとしたことで大怪我を負ったテイアは流産してしまい、これを切っ掛けに元々良くなかった母娘間の関係はさらに悪化する。セレーネへの虐待が始まり、これは大人になっても続いた。

セレーネは母への贖罪のために宇宙飛行士を目指すがなかなかうまくいかない。キャリアと母の間で板挟みになって苦しむセレーネはこの頃に懐妊する。一時はキャリアのために堕胎することを考えるがテイアへの期待もあって最終的には産むことに決めた。生まれた子供にはテイアの生まれなかった息子の名前から「ヘリオス」と名付ける。

テイアはセレーネに対しては態度を緩めることはなかったがヘリオスに対しては優しい表情を見せた。その事はセレーネの心を少し軽くしたが今度はキャリアと育児で悩まされ、セレーネはヘリオスに対して冷たい態度で当たるようになっていく。

ある日セレーネがヘリオスを乗せて車を運転していたところ、進行方向に突如宇宙服を着た人物が現れる。慌ててハンドルを切ったセレーネの車はガードレールを突き破り湖に落下する。この二度目の事故によってヘリオスが行方不明になり、セレーネは大怪我を負って救助される。

ヘリオスの死によってセレーネとテイア両者の精神が限界に達する。セレーネは自宅で療養していたテイアを地下室に閉じ込めて家に火を放ち事故を装って焼き殺した。

アストラ社の研究員として働いていたセレーネは精神状態を疑われながらも成果を出してスカウトに任命される。この後、独断専行で宇宙船をアトロポスに接近させて乗り込んだ。そして墜落したことでゲーム本編へ。

セレーネと家族関係

ここではセレーネとテイアの関係を中心にいくつかの疑問について掘り下げて考える。

テイアの息子としてのヘリオス

時系列の方には書いたものの実は作中でテイアが懐妊していたという言及は存在しない。しかしセレーネとの異常な不和やセレーネが子供を求めたことを考えるとテイアは懐妊していた子がおり、そして事故で失ってしまったと推測できる。

キモイ

作中のいくつかのイベントで登場するテイアは車椅子に座った化け物として描写されている。これはセレーネから見たテイアが怪物だからだ。気になるのはその腹部だ。当初オデは餓鬼のような体系なのかと思っていたが、妊婦であるとも考えられることに気づいた。もちろんテイアが事故に遭って車椅子生活を始める頃には流産しているはずだが、これはセレーネのイメージだからおかしいことはない。

キモイ-!

病院イベントを見返したら膨らんだ腹部が胎動していた。テイアが妊娠していたのは間違いないだろう。

ヘリオスという名の由来はギリシア神話の太陽神ヘリオスであり、セレーネの兄弟だ。ヒュペリーオーンとテイアーという二人の神の間に生まれたのがセレーネとヘリオスである。

作中では、
父・本名不明(四層ボスの名前がヒュペリオンでセレーネの父をモチーフとしている)
母・テイア(由来は神のテイアー)
娘・セレーネ(由来はそのまま月の女神セレーネ)
と父親の名前は不明ながらセレーネの名前はギリシア神話に忠実に名付けられている。それなのに「ヘリオス」がセレーネの弟ではなく息子というのは違和感があったが、テイアの子どもとして一人目のヘリオスがいたのなら筋が通る。

病院にある落書きとその英文の内容は三人の家族に関係している。英文はこう(読みにくいのでredditで調べた)

“There once was a girl, happy as can be, with Mommy and ==== making three. They lived a life joyful and free, safe in their home amongst the trees.”

“But one day the girl woke up alone. Mommy and ==== had both gone from their home. She searched the woods but found no Mommy, no ====, just silent trees and empty moss.”

“The girl heard a voice from the deep in the green, calling out sadly “====, ====”. But no matter how far she raced, she never did see the caller’s face. She returned home alone, now a woman full grown. She looked out at the night and said to herself, “It’s time to take flight, to where the sun shines bright.”

これを翻訳すると、

「あるところに女の子がいて、ママと三人で幸せそうに暮らしていました。二人は木々に囲まれた家で、楽しく自由で安全な生活を送っていました。」

「でもある日、女の子は一人で目を覚ました。ママも====も家から出て行ってしまった。森の中を探したが、ママも====も見つからず、ただ静かな木々と空の苔だけがあった。」

「少女は緑の奥から「====、====」と悲しそうに叫ぶ声を聞いた。しかし、どんなに遠くまで走っても、その声の主の顔を見ることはなかった。彼女は今、一人で家に帰った。彼女は夜を眺めながら、「太陽が明るく輝く場所へ飛び立つ時間だ」と心の中で言いました。

となる。絵を見ればわかるが一人は母親で小さな女の子と小さな男の子の姉弟がいる。この顔と名前の塗りつぶされているのが生まれるはずだったヘリオスだろう。最終的に男の子と母親はいなくなり、少女だけが残る。そして少女は成長して家に戻ってくる。

この落書きで示されている一連のストーリーはセレーネ視点での過去の出来事と見ることができる。

セレーネの息子としてのヘリオス

セレーネは生まれてくる男の子の名前を家族に因んだ名前としている。これは明確にテイアの死産したヘリオスから取ってそのままヘリオスにしたと考えて間違いない。

テイアはセレーネに対しては事故後ずっと厳しい態度を取っていたがセレーネの息子であるヘリオスに対しては微笑んでいた。これは明らかに自分が死産したヘリオスとセレーネの息子のヘリオスを重ねているためだ。しかしこの微笑みがセレーネに向けられることはなかった。セレーネにとってヘリオスという息子を生むことはテイアに認められる最後の機会だったのだが、期待は失望へと変わっていった。

セレーネの負い目

テイアが起こした事故においてテイアはセレーネを命がけで救出しようとしている。その結果、セレーネは奇跡的に無事だったがテイアは下半身不随になりヘリオスは流産してしまった。この事が母娘の間に決定的な亀裂を入れ、テイアはセレーネに対して精神的な虐待を繰り返すようになった。セレーネがこれを大人になるまで受け入れているのはテイアに救ってもらったという負い目があるからだ。

テイアが親子とはいえあまり良い関係ではなかったセレーネを助けた理由は定かではない。テイアが水泳選手として優れていたことから余裕があると考えたか、あるいは状況的に咄嗟のことだったのかもしれない。しかしこの一件で救われたことによりセレーネは「もしかしたらテイアに愛されているのかもしれない」という考えを捨てられなくなってしまった。

スカウトログで語られているがセレーネはキャリアのことを考えて生まれてくる子供を堕胎することを考えていた。しかし自らを救うために生まれてくるはずだった子供を流産させてしまったテイアのことを考えると堕胎に踏み切れず、最終的には産んでいる。ここには打算もあり、テイアが生めなかったヘリオスという名前を息子に付けたらテイアがセレーネに目を向けてくれるのでは、という期待も込められていた。

出産への忌避感

セレーネの実家イベント(二回目)で玄関の上に置いてある薬を手に取り「しばらく飲んでなかったな…」とセレーネが独りごちるシーンがある。プレイヤー目線から見るとこの時点でセレーネは精神疾患を持っている疑いが強いのでこれは向精神薬だろうと流してしまいがちだが、実はこの薬、拡大すると「silphium」と書いてあるらしい(redditで見つけた)

シルフィウムは言うまでもないがリターナルにおける重要な回復アイテムだ。

実はこのシルフィウムは架空のアイテムではなく実在した幻の薬草が由来となっている。シルフィウムはリターナルとも関連深い古代ギリシャに存在したとされており、史上最古の避妊薬として使われていたという。

もちろん現実にシルフィウムという避妊薬は存在しないのでセレーネが地球で飲んでいた避妊薬はまた別の名前の薬なのだろう。実家イベントで「シルフィウム」とされているのはセレーネの妄想か、あるいはアトロポスによって作られた歪んだ記憶の再現なのだろう。

シルフィウム(避妊薬)がリターナルにてセレーネの回復アイテムだというのは作中で大きな意味を持つ。スーツを回復する……つまり妊娠していない(子供を持たない)状態のセレーネが、セレーネの中では完璧な自分として思い描かれているという証左ではないだろうか。

現実ではセレーネは避妊薬を飲むことをやめてヘリオスを産むことを受け入れた。しかしそのことに対しての後悔がある。だからアトロポスでの回復薬は避妊薬を暗示する「シルフィウム」となっている。

リターナル本編中でアトロポス内に見つけるセンティエントの石像の中には腹を自分の手で掻き出そうとする石像がある。これはセレーネ自身が子供を心の底からは望んでいなかったことを示している。

なおこの考察では惑星アトロポスは現実世界(リターナルという作中の)に存在し、その文化にセレーネが影響を与えているという前提で話していく。その辺りはこちらの記事を参照。

また腹に穴を開けて上を見上げるセンティエントの像も存在する。これは子供に縛られずにキャリアを追求するというセレーネの理想を形にしたものでシシュポスの前に並んでいるのが象徴的だ。この石像は向上を示している。

歪な親子関係

セレーネにとってテイアは非常に大きな存在だ。精神的虐待を与えられ続けてきた憎むべき存在でありながらセレーネの目標であり、セレーネにとって一番認めてもらいたい相手である。セレーネはテイアを憎みながらも介護を続け、媚びるような態度を取り、テイアの機嫌を取ることを理由の一つにしてヘリオスを産んでいる。しかし最終的にはテイアがセレーネを見ることはなかったため両者の関係は悪化の一途をたどり、最終的には自宅の地下室に監禁して火をつけて殺害した。

作中のスカウトログで狂的に振る舞うためセレーネの異常性が際立つが、テイアからの精神的虐待はセレーネの精神状態を危うくさせるには充分すぎるものだ。そもそも事故の前からテイアは自己中心的な人物でありセレーネとの関係が良いとは言えなかった。そこに流産や下半身不随が重なりセレーネへの大きな憎しみへと変わった。

セレーネとテイアは一度目の事故によって大きく変わってしまった。二人ともヘリオスに対しての負い目が、そしてセレーネはテイアへの負い目がある。償いと赦しを欲しているがお互いから与えられることはない。それをセレーネは理解しているが追い求めずにはいられない。

シシュポスの巨塔の存在意義

シシュポスの巨塔」はリターナルの無料DLCで追加された新コンテンツ。通常のエリアとは異なる場所を探索する新モードとなっている。このシシュポスには本編で描かれなかった物語をプレイヤーに提示するという役割があるが、今回はこのシシュポスの巨塔がセレーネにとってはどのような場所なのか? というストーリーに準じた目線から考察を行っていく。

シシュポスの巨塔とは?

シシュポスの巨塔はハイブマインドたちが追い求めた新天地である。ゼノグリフに書かれた「久遠の孤立」というのは触手生物を受け入れてセヴァード(孤立する者)に変化すること。ハイブマインドの多くはオートマトンを配備したタワー(三層)に籠城することを選んだがシシュポスに救いを求めた個体も中には存在したということだろう。

センティエントちょっとおさらい
センティエント→惑星アトロポスに棲む人型の生命体。ある出来事を切っ掛けに二つの派閥に分裂し殺し合うこととなった。

ハイブマインド→集合意識を共有するセンティエント。高度な文化を持ちオートマトンなどを製造した。セヴァードと呼ばれる特殊個体が増えていったことがきっかけで内争に発展し、やがて滅びた。

セヴァード→触手生物を受け入れて進化したセンティエント。ハイブマインドと分かたれた後、内争に発展した。現在も一部の個体は生存しておりセレーネに向かって狂暴に襲い掛かって来る。

事実シシュポスの前に飾られているセンティエントの像はセヴァードではなくハイブマインドの姿をしている。このシシュポスの巨塔はハイブマインドたちが触手生物からの浸食を拒むために逃げ込んだ場所だ。

しかしシシュポスの巨塔はハイブマインドたちが求めた救いの場所などではなく、アルゴスと呼ばれる存在が支配している。アルゴスは巨塔を侵食して変化し、巨塔を貪っている。そしてアルゴスはハイブマインドに対しての興味を持っていない上に解放するつもりもない。恐らくはこの場所が多くのハイブマインドの墓場となった。

アルゴスはシシュポスの巨塔で層ごとに登場する唯一のボスのこと。

アルゴスはギリシア神話に登場する100の目をもつ(あるいは体に多くの目をそなえた)巨人である。全身に100の目を持ち、しかもそれらの目は交代で眠るため、アルゴス自身は常に目覚めている(別の伝承では、背中に第三の目があるとも、後頭部に二つ目があるとも言われる)。つまり、アルゴスには時間的にも空間的にも死角が無い。
引用元:Wikipedia

その性質から創作物などでは主に「監視者」などの役割を果たすことが多い。シシュポスにおいてもアルゴスは監視者としてセレーネの前に立ちはだかる。

セレーネにとってのシシュポスの巨塔

セレーネにとってのシシュポスは通常のループ以外に現れた新たな選択肢だ。スカウトログでわかる通り次第にループを抜け出すことではなくシシュポスに登ることが目的にすげ代わっていく。セレーネにとってシシュポスは魅力的な場所であり、成長を感じられる場所だからだろう。

元々のスカウト規定ではスーツを改造しすぎない、異常を受け入れすぎないという「不可逆的な汚染」まで侵すな、という規定がある。しかし本編で寄生虫を全身に寄生させているセレーネを見ればわかることだがセレーネはアトロポスに着いてからまったく規定を守っていない。どころか不可逆的な汚染を受け入れ続けて成長を続けることが目的となっている。

画像引用元:ArtStaition Returnal

セレーネが不可逆的な汚染を受け入れることは別におかしいことではない。セレーネは当初惑星アトロポスを探索してループから逃れるために触手生物を受け入れていったが、その終着地点が六層ボスのオフィオンである。セレーネはキャリア的向上心と研究意欲が合わさり、自らを高度な次元に押し上げたいという思いで満ちている。そしてシシュポスは通常のアトロポスよりもセレーネの向上心を満たしやすい場所なのだ。

これはゲームのプレイとしても同じことが言える。シシュポスは本編のプレイよりも遥かに早くセレーネを強化するし、一部屋ごとの勝利で達成感を与えてくれる。プレイヤーが得ているその感覚をストーリー内のセレーネは自らで体感していると考えればわかりやすい。

セレーネの記憶:病院

シシュポスの巨塔にはストーリーイベントも存在し一定の層までたどり着いて「白いポピー」というアイテムを集めることで順次イベントが解放される仕組みとなっている。イベントの舞台はセレーネの記憶の中の病院となっている。これは本編においてのセレーネの生家のようなもの。セレーネが本編中失っていた記憶を取り戻すための場所であり、もちろんストーリー的にも大きな意味合いを持っている。

まず前提としてセレーネはテイアに対して様々な感情を抱いている。憎悪、畏怖、承認欲求、親子の情など。現実世界ではテイアを殺害するに至ったセレーネではあるが惑星アトロポスでのセレーネはテイアと改めて向き合い、別の形で乗り越えようと考えている。これが意識的か無意識的かはともかく、母であるテイアを乗り越えることはセレーネが抱き続けている渇望だ。

ざっくりとそれぞれのエンディングの解説

本編真エンド→車椅子に座ったテイアに掴みかかられるセレーネだが突き飛ばす。「大した人じゃなかった」と発言している。
病院エンド→病院のベッドで横たわるテイアと抱きしめ合う。やがてセレーネの精神世界からテイアが消え、セレーネは一時の安らぎを得る。

これだけ見ても何のことやら、という感じだがどちらもセレーネがテイアを乗り越えるために選んだ決断がエンディングになっている。本編エンドではテイアを突き飛ばして大した人じゃなかった、と吐き捨てる。要はセレーネにとって重要な存在ではなく、殺害したことへの罪悪感も抱かなくて良かったのだと思い込むエンディングだ。

病院エンドでは白いポピーを集めてお見舞いを繰り返し、最終的にはテイアから抱きしめられる。そこで初めてセレーネは母と抱きしめ合い、一時の安らぎを得た。ただそれはしょせん妄想でしかない。抱きしめ合うことでテイアを赦し、テイアから赦されたという感覚を得られるとセレーネは考えていたが、これは思い違いでしかなかった。

要するに本編クリアでもシシュポスクリアでもセレーネはテイアを受け入れることはできていない。それを示すスカウトログも存在する。結局のところ生前のテイアがセレーネを赦したことがない以上、この惑星アトロポスで赦しを得たとしても空虚な妄想に過ぎないと悟ってしまったからだ。

ちなみに「テイアと彼女のたった一人の子ども」という題名の本がテイアの病室に置いてある(正確に言えば実家イベントでも見つけることができる)これはテイアが生まれてくることのなかった息子ヘリオスにばかり目を向けて、実際の娘であるセレーネを見もしないことへの怒り、ヘリオスへの嫉妬が生み出したセレーネの妄想の本だろう。この病室には親子の写真やテイアの遺書じみた文章など、明らかにセレーネにとって都合の良い情報ばかりが置いてある。この病室はセレーネがテイアに赦しを求め、それが応じられるためだけの場所だからだ。

セレーネがお見舞いに集めているポピーの花言葉は「慰め」「妄想」「夢想家」である。そして渡している白いポピーの花言葉は「眠り」「忘却」「疑惑」「推測」「わが毒」となっている。

ポピーはギリシャ神話と繋がりがある。娘をハデスに奪われた女神が眠ることもできなくなったとき眠りの神ヒュプノスがポピー(ケシの花)を贈ったことで眠れるようになった、という話がある。花言葉の「眠り」「忘却」もこの話に由来する。

娘ではないが息子(ヘリオス)を奪われて生きる気力を失ったテイアに向けて渡されるのなら由来に近いかもしれない。

シシュポスの巨塔が存在する本当の理由

シシュポスの巨塔にはセレーネが求めるべき記憶と赦しがある、ということはこれまでに語った。次に最も重要なのは誰がシシュポスの巨塔を運営しており、何のために運営しているのか? という点だ。惑星アトロポスがセレーネの妄想の世界でないという考察に基づいて語るのならそこにはセレーネ以外の別の意志が介在しているのが確実である。

詳しく語る前にまず大前提として「惑星アトロポスはセレーネの妄想ではなく実在している」というのが考察の基本になっていることを再確認したい。

このリターナルというゲーム、オデが調べた限りでは国内のストーリー考察系の記事は「惑星アトロポスはセレーネの妄想である」という説が大半を占めている。ぶっちゃけそっちの方が分かりやすいしそこで話が完結するのだが、そうなると惑星アトロポスという舞台の設定、あらゆる文化や歴史が無意味なものになってしまう。オデは当初は全てセレーネの妄想であるという説だったが、突き詰めて考えていった結果「惑星アトロポスは存在する」という説を推すようになった。その辺りはこちらの記事でもう少し詳しく書いているのでぜひご一読いただきたい。

で。これまでセレーネが叫んでいたポエムなどの事を考えると惑星アトロポスが存在する、とは中々考えにくいと思うのでそこについて改めておさらいする。

触手生物の目的

画像引用元:ArtStaition Returnal

まず惑星アトロポスには「イコル」という黒い液体状のエネルギーが存在する。周回をしていてもたまに見かけるはず。中心にイコルが浮いておりコウモリやマイコモーフが湧いてくる「イコル部屋」などが分かりやすいだろうか。このイコルはギリシア神話に登場する神もしくは不老不死者の血(霊液)とされている。セヴァードやセレーネの台詞には「暗き太陽」「黒い太陽」という言葉が出てくるがこれはイコルのことを示している。

イコルは非常に強力なエネルギーで一部のクリーチャーに影響している他、触手生物の源でもある。

エンディング等で姿を現す「カオス」も大量のイコルの上に浮かんでいる。

イコルとそこから生まれる触手生物には「精神性」というものがない。だからこそ触手生物は何者かの精神性をエサにして成長するという性質を持っている。しかし惑星アトロポスにはエサとなる精神性を持つ生物がほとんど存在しなかった。

画像引用元:ArtStaition Returnal

センティエントはこの惑星アトロポスで生まれ、文化を営んできた人型の種族だ。センティエントは「ハイブマインド(集合意識)」を共有する存在である。そこに精神、記憶など触手生物のエサとなるものは存在しない。

ゆえに触手生物はハイブマインドを誘惑し、力を与える代わりに一人ずつのセンティエントを孤立させていった。触手生物を取り込んだセンティエントはセヴァード(孤立する者)となりハイブマインドと切り離された。これによりセヴァードは触手生物に寄生され捕食される存在と化した。

しかしセヴァードはハイブマインドとの内争で数を減らしていき絶滅が近くなっていった。セヴァードから永久に精神性を吸い上げるという目論見は不可能だった。そこで触手生物はやがて現れる地球人、セレーネに目を付けた。

セレーネは「白い影」という信号が発せられたのをきっかけに惑星アトロポスに降り立ったが、これはセレーネの意志ではない。セレーネを呼び寄せるために「白い影」信号が送られた。全ては仕組まれた計画だった。

こうして触手生物はセンティエントよりも複雑な精神性を有する存在であるセレーネの精神を貪り続けるというループを完成させた。セレーネは墜落した状態から蘇って記憶を取り戻しながら進んでいき、どこかで死亡する。すると死亡したセレーネに触手生物が集まりその記憶を貪り栄養とする。触手生物は再びセレーネを生産し、行動させる。死亡する。これを繰り返している。なので厳密に言えばセレーネはループしているわけではない。

例えばマルチプレイでは二人のセレーネが同時に存在しているし、たまに落ちているセレーネの死体からは触手生物が出てきたり触手生物がセレーネの死体を操って向かってきたりする。セレーネは惑星アトロポスで大量に生み出され、死んでいく。アトロポスにある装置で時空間を転移できるのでどの時代にもセレーネは存在する。

画像引用元:ArtStaition Returnal

これを主導しているのがカオスだ。カオスは複数の赤い瞳を持つ触手生物でセレーネを監視している。そして不思議なことだがカオスや触手生物とセレーネは奇妙な共生関係にある。

セレーネは自らが起こした事故で失ってしまった息子ヘリオス、そして自らを助けるために人生を失ってしまった母テイアに対する罪悪感がある。全ての記憶を取り戻したセレーネの結論は、自らがヘリオスと一緒にいられるのは罪の意識を感じながらアトロポスに留まっている間であるというもの。だからループを受け入れている。

一部のエンディングなどではセレーネがカオスに対して「いるんでしょ? 出ておいで」などと声を掛けている場面が存在する。これはアトロポスの秘密に近づくことでカオスの存在と目的に気づいているからだ。

シシュポスの運営

長くなったが惑星アトロポスには精神性を栄養とする触手生物が存在し、セレーネをそのエサにするためにループさせているということのおさらいが済んだ。そうしてセレーネがループすることで得をする存在がいる事を思えばシシュポスの巨塔も意味があって存在すると考えやすいと思う。

シシュポスの巨塔はセレーネの死のサイクルを加速させるための一種の装置だ。上述した通り元はハイブマインドの緊急避難先のような場所だったのだろう。低階層が他の建造物と同じテクノロジーなのはセンティエントの文化で造られたものだからだ。しかし上層階はまったく別物になっており、進む度にタワーの姿は肉塊のようになっていく。

上へと進むたびに生物に近づいて私をじっと見つめる」というのはセレーネの妄想ではなく実際のことだ。そもそも惑星アトロポスの中心部にあるイコルというエネルギーはセレーネがループする度に惑星の形を変えているほどの影響力を持つ。そのイコルを源とする触手生物の塊、アルゴスがシシュポスの塔の上層部を形作っている。つまり造られたタワー部分は低層階のみで、その上は全て触手生物で構成されているということに他ならない。

アルゴスがシシュポスに逃げ込んできたハイブマインドに興味が無いのはハイブマインドはエサになり得ないためだ。シシュポスは精神構造を持つ者、セレーネのためだけに管理され更新されている。

その後はシシュポスで見つけるスカウトログの通り。一部のセレーネは受け入れて楽しんでいるし、一部のセレーネは自らの記憶と向き合うための場所としている。あるいは全てを悟ったことでこの場所を作っている触手生物へと憎しみを向けているセレーネも存在する。様々なスカウトログを拾い集めるとセレーネがシシュポスに対してどういう感情を抱いているかがわかる。

セレーネがどのような感情を抱いてシシュポスを登ったとしてもその精神は全てアルゴスに還元される。アルゴスがセレーネに敗北する度にセレーネに負荷を掛けるのも塔を登らせながら複雑な精神活動を営んでほしいからだ。

評決は無罪。釈放は禁ずる。空虚な抱擁が終わり、そしてまた始まる
この言葉はアルゴスが発している信号の解読文書だ。

空虚な抱擁」というのはセレーネがテイアを受け入れるという答えに達することだ。これは病院エンドが完結した際に同じ「空虚な抱擁」というトロフィーが獲得できる。病院エンドではテイアがいた場所に大量のセレーネが項垂れて座っている。つまりここまでやってきたがテイアを受け入れても先に進むことはできなかった、とセレーネが悟る行き止まりの道だからだ。

アルゴスはセレーネがこの結論に至ることを知っており、そして繰り返されることも知っている。セレーネはこうして精神を搾取されることに気づいているが何の対抗もできずにいる。

という辺りでシシュポスの巨塔に関する考察は終わり。ここからはこれまでに解けたとは言い難い謎について軽く言及していく。

いくつかの謎とそれに対する想像

ここではストーリー中でしっかりと明かされていないことを取り上げてオデなりの想像で補っていく。これまでのストーリー考察に比べるとラフな内容になるかもしれないが、リターナルの考察をするのも今回が最後だしやらないよりはやっておくかの精神。思いついたことがあれば追記していく。

セレーネの父の存在

セレーネの父に関してはこの曲をストーリーに盛り込みたかった以外にはそこまで重要性を感じない。存在感がまったくないのでどこかの時点で離婚したのだろう。テイアがシングルマザー→セレーネがシングルマザーという境遇のループのことを考えるとそれがしっくりくる。

セレーネはなぜオフィオンになったのか

画像引用元:ArtStaition Returnal

六層のボスであり作中のラスボスであるオフィオン。三ゲージ目になるとセレーネの顔が盛り上がり、その正体がセレーネであることがわかるが……なぜこうなってしまったのか。

まずセレーネは研究者として惑星アトロポスに何かを見出していた。強引さやアストラ上層部が危惧していたことを考えるとセレーネは「時空間移動」を目指していたことが伺える。セレーネはアトロポスにあるイコルのエネルギーとセンティエントが持つ星間転移に目を付け、時間軸を遡って事故で失った息子ヘリオスを救おうとした。

それまでの過程でセレーネはセンティエントやセヴァードと敵対する存在となり、触手生物を積極的に受け入れていった。最終的にセレーネは「宇宙飛行士」となって地球上に戻り、現代のセレーネが起こした事故を止めるために車に立ちはだかった。しかし宇宙飛行士が車の前に立ちはだかったことがそもそもセレーネが事故を起こす原因(ハンドルを焦って切って避けようとした)になってしまった。要するにセレーネが事故を止めようとしたことが、事故の原因となってしまった。因果の逆転現象が起きたわけだ。

絶望したセレーネは全ての記憶を忘れるために触手生物に飲み込まれていった。その結果、水底で眠るオフィオンと化した。

宇宙飛行士となったセレーネはおそらく大量の触手生物を取り込み、センティエントやセヴァードを超える存在となっている。セヴァードがこの宇宙飛行士に畏怖して像を作ったことから、セヴァードにとっては神に近い存在に思えたことがわかる。おそらく宇宙飛行士のセレーネは体のほとんどが触手であり、スーツを形作って触手を押し込んだだけの化け物になっている可能性が高い。

リサーチ完了で明かされる謎のストーリー

アイテム図鑑などではリサーチが100%に達すると記号に囲われた謎のストーリーが見られるようになる。ある程度のアイテムを集めて確認したが内容はさっぱり理解できなかった。ただ「研究」「彼女」などの言葉からおそらくはアストラでのセレーネ、あるいは惑星アトロポスの過去に戻ったセレーネに関するストーリーなんじゃないかと想像している。正直、ゲームプレイを通じてリサーチを終わらせていくのは諦めたのでここについて考察する気力は無い。

恒久装備とその持ち主は何者?

画像引用元:playstationブログ

リターナルには「恒久装備」というものがある。これは入手することで新しいギミックなどに関与できる装備のことで周回しても失われない。例えば二層ボスから入手できるイクシオン……なんだっけ。隻狼のフックロープ……みたいなやつ。イクシオン・フックロープなどが挙がる。

これらを持っているセンティエントは何者なのか? ということを考えてみる。イクシオン以外の恒久装備の持ち主は各層で力尽きて死んでおり、セレーネはその装備を剥ぎ取ってアストラスーツに装着している。彼らの目的は何だったのか? これは恒久装備の持ち主であり唯一交戦することになるイクシオンについてのゼノグリフを見れば大よそ想像がつく。

三日月のごとき大鎌は始まりであり終わりでもある者に振り下ろされんとしている」という文章。この始まりであり終わりでもある者は六層ボスのオフィオンのことだ。つまり恒久装備の持ち主たちの目的はオフィオンを殺すことにあった。しかし実際には成功していない。イクシオン以外は各層で力尽きており、その力はセレーネが手に入れていくことになる。

恐らくは恒久装備の持ち主たちはループを終わらせるためにオフィオンに挑んだ過去の勇者たちだ。実は一部のスカウトログではセレーネが一部の恒久装備の持ち主について言及している。彼らはセレーネと同じようにループに立ち向かったという痕跡がある。

Returnal考察を終えて

これまで合計三つのリターナル考察記事を書いてきた。九月くらいに遊び始めて十月にはクリアし、そこからストーリーが気になってスカウトログなどを集めながら(全て集めるのは無理だった)資料となりそうな画像を撮ってメモに書いてきた。そして考察を終えた今だからこそ言えることがある。

わかりにくい! マジで!

公式の謳い文句は「ループの秘密を解き明かせ」というものだがとてもではないが解き明かしたくはならないと思う。全体的に陰鬱で不親切だし主人公がいわゆる信用のならない語り手なのもいただけない。日本国内で考察しているユーザーが少ないのも無理からぬ話だと思う。なんというか、頑張ればどうにかなるというレベルを超えてしまっている。

しかも追加された無料DLCのシシュポスの巨塔まで含めないとストーリーの見え方がまったく変わってくるのもストーリーを難解にしている要因だ。例えば事故が二回あったことはシシュポスの病院イベントを見ないと非常に分かりにくい。

大雑把にまとめるならリターナルは親子間の確執とそれが繰り返されるという物話だ。テイアからセレーネへの虐待がセレーネからヘリオスへのネグレクトに変わる。テイアがキャリアを失い、セレーネがキャリアを失う。テイアが息子を失い、セレーネも同じく息子を失う。様々な問題がループしていく中でそこから抜け出そうとしたセレーネだったが、そもそも自分自身がループを抜け出そうとしたことが切っ掛けで息子を失うことになってしまった。

唯一の救いはセレーネが疎ましく思っていたヘリオスが本当はセレーネの中で大事な存在だったということを再確認したことだ。ある意味ではそこでループが解けている。観念的な解決でしかなく物語はバッドエンドには変わりないが。

redditで「returnal」と検索してようやく知りたい情報や議論を見ることができたのでリターナルのストーリーについて考察したい人はredditを見ることをオススメする。いるか? そんなやつ? と思わなくもないが……いるよね? 一人くらいは。いると言ってほしい。考察をしている我々のようなユーザーをマイノリティにしないためにも。

個人的にこのゲームを考察する上で面白かったのは「惑星アトロポスが存在するか否か」という議論だ。過去の記事にも書いている通り惑星アトロポスはセレーネの頭の中に広がっている妄想の世界と考える方が全てが解決に向かう。しかしこのゲームはSF物であり、作りこまれた世界観が存在する。全てがセレーネの妄想……で終わってしまうより、センティエントやイコルの存在から惑星アトロポスが存在する、という前提で考えたほうが面白くなる。redditではこの辺りに関してバチバチと議論が繰り返されており非常に見ごたえがあった。

公式が明確にアンサーを出さない以上は惑星アトロポスが作中に存在するのか、あるいはセレーネの妄想の世界なのかはわからない。だからこそそこについては一考の余地があると思う。

ストーリー部分についてはかなり陰鬱で、セレーネにハッピーエンドが訪れないのは残念だ。オデはハッピーエンドが好きなので。しかしセレーネというキャラクターの人間臭さややけくその精神性に関しては遊んでいてかなり気に入った。元気に走り回り、スーツに寄生虫を纏わせて喜ぶ楽しいおばさんである。

ストーリーのことは何もわからないけどゲームプレイが面白い、と書いているユーザーは多かった。リターナルはゲームプレイの手触りだけで評価されているという、ある種逆に難しいことをやってのけているゲームだ。だからこそもう少しストーリーについて思いを馳せる余裕というか、ストーリーについて考えるためのとっかかりを用意してほしかったなというのが考察を終えてのオデの正直な気持ちである。

ではリターナル考察は今回でおそらく最後になる。お付き合いいただいた方がいればおつかれさま。これからも楽しいアトロポスライフを!

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